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10/16 2008

アブラハムの故郷「ウル」はどこ?

 ウルという地は、信仰の父アブラハムが生まれ、神によって連れ出された出発場所です。その地名は聖書に4回登場します(創世記11:28; 11:31; 15:7; ネヘミヤ9:7)。ヨシュア記24:2-3にはウルという地名は出ませんが、その地は「ユーフラテス川の向こう」にあり、そこにおいてアブラムの父テラは、異教の神々へ仕えていたことが記されています。神はアブラムたちを、そのような異教的生活の地から連れ出して、約束の地へと導き出されました。現代を生きるクリスチャンにもその祝福が及ぶことを思うとき、真に偉大な信仰の旅立ちだったわけです(ガラテヤ3:14)。


カラー聖書ガイドブック (137)によるアブラハムの出発場所ウル
 さて、ウルの場所については常々、シュメールをB.C.2112年頃から2004年頃まで治めたウル第3王朝の首都であるウルであるとされてきました。「そこは南イラクでユーフラテス川に沿ったナシエリーの西14キロの所」(シュルツ 48)にあり、「シュメールの首都」(ワルブードら 46)です。多くの聖書地図において、そこをアブラハムの出発地点として記しています(カラー聖書ガイドブック 137など)。



The Moody Atlas of Bible Lands (81)によるアブラハムの出発場所ウル
 一方、アブラハムの故郷であるウルを、シュメールの首都とは捉えず、別の場所の都市として理解する人たちが近年現れました。ベイツェルは自著「The Moody Atlas of Bible Lands 」において、アブラハムの故郷のウルを、ハランから東に150km程の地域として地図を記しています。どちらの理解が歴史的に正確なのでしょうか。


アブラハムの故郷ウルは、シュメールの首都ウルとは異なる、メソポタミア北部の都市と思われます

第一の理由は、アブラハムの故郷ウルは必ず「カルデヤ人のウル」と呼ばれており、B.C.10世紀以前、カルデヤ人勢力はメソポタミヤ北部までしかなかったからです

 アブラハムの故郷ウルは聖書において4回登場しますが、そのすべてにおいて「カルデヤ人の」という修飾詞がついています(創世記11:28; 11:31; 15:7; ネヘミヤ9:7)。カルデヤ人勢力がメソポタミヤ南部にまで勢力を伸ばしたのはB.C.10世紀頃であり、それ以前にシュメールの首都ウルが「カルデヤ人のウル」と呼ばれるはずがないことは、歴史上の事実です(ブライト90、ベイツェル80、サルナ87、ウェンハム272)。

 それにも関わらずウェンハムがシュメールの首都ウルをアブラハムの故郷とみなすのは、「古い伝統にたった注釈」(272)と理解しているからなのですが、どんな伝統なのかは一言も触れていません。ウェンハムはJEDP説を完全に捨て切ってはいないので、そのような発想が産まれるとしか思えません。しかも、かなり後期にしるされたネヘミヤ記にも同じ記述があるのですから、「古い伝統にたった注釈」が理由になるとは到底思えません。

第二の理由は、メソポタミアの諸文献において、「北部のウル」(Urfa)について言及があることが分かり、シュメールではなくハランの文化を色濃く反映したアブラハムの親族と相性がよいからです


 アララハ(Alalakh)、ウガリット(Ugarit)、ハットゥシャ(Hattusha)、エブラ(Ebla)で近年発掘されているメソポタミヤ諸文献の中に、シュメールの首都とは異なる、北部のウルについての言及があることが分かりました(ベイツェル80)。エブラ文書には「ハラン近郊のウル」という表現がある、とマロニーは報告しています(Biblicla Archaeology Review IV, 9.)。アブラハムの時代にはすでにカルデヤ人の影響が強かったメソポタミヤ北部にも、ウルという地があることが分かってきた以上、正確な場所は今後の発掘にゆだねるにしても、この北部のウルをアブラハムの出立の地としない理由はありません。

 また、アブラハムの先祖がメソポタミア南部ではなく、北部のハラン近郊にもともと生活していたことは、広く受け入れられています。ワルブードは、アブラハムの先祖の名前が数多くハラン近郊に見られることを挙げています(46)。ライトも明確にこう言っています。

どちらにせよ、族長たちが最も密接なつながりを持った地はハラン(カラン)であり、族長たちの伝説には南メソポタミアの影響を示す証拠は少ない。(41)


 にもかかわらずワルブードは、第三子のハランを出産するときにテラたち家族はわざわざメソポタミア南部のウルに移動し、ハランの出産と死の後に再びハランに戻ってきた、という大掛かりな推測を建てています(46)。ハラン近郊にあるウルでテラたち家族がもともと生活していたと考えれば、ハランと密接なつながりをもっていたことも納得できますし、ウルから出発してハランを経由し、アブラハムたちはさらにカナンへと向かった、という道筋が明確です。

 さらに、ゴードンが論文「Where is Abraham’s Ur?」にて記すように、メソポタミア南部のウルからカナンへと向かう道は、ハランから100km近く離れているので、旅の途中に立ち寄るような位置関係にはありません(20)。

 しかも、ヨシュア記24:3において「わたしは、あなたがたの先祖アブラハムを、ユーフラテス川の向こうから連れて来て […]」(新改訳。強調は付けたし)と記されています。メソポタミア南部のウルはユーフラテス川の南西にあるので、カナンから見て「川の向こう」という表現にふさわしい地とは思えません。かえって、メソポタミア北部のウルはハラン近郊であり、ユーラテス川の北東部なので、「川の向こう」という表現に最もふさわしいです。

結語


 アブラハムはハランにて父テラと別れ、カナンへと向かいました。しかしアブラハムの生まれた故郷(創世記12:1)はウル、しかもハラン近郊にあるメソポタミア北部のウルと考えるべきでしょう(創世記15:7; ネヘミヤ9:7)。「カルデヤ人のウル」という表現からも、近年の考古学上の発見からも、族長の特徴からも、旅行の経路からも、「川向こう」という表現からも、メソポタミア南部のウルをアブラハムの故郷と考えることは非常に難しいです。

 メソポタミア北部のウルは、宗教的に、商業的に、ハランと結びついて、月の神を拝む中心地でしたから(ブライト90)、アブラハムの父テラはその影響下で「ほかの神々に仕えていた」(ヨシュア記24:2)のです。父テラは、ウルとつながりの深いハランまでしか旅を続けず、結局、異教的生活を捨て切れませんでした。しかしアブラハムは、ハランからも出立し、真の神の招きに応えたのです。



参考文献



Beitzel, Barry. The Moody Atlas of Bible Lands . Chicago: Moody, 1985.

Bright, John, and William P. Brown. A History of Israel 4th ed. Luoisville, London: Westminster John Knox, 2000.

Gordon, Cyrus H. "Where Is Abraham’s Ur?" Biblical Archaeology Review III. 20-21.

Maloney, Paul. C. "The Raw Material". Biblical Archaeology Review IV. 8.

Sarna, Nahum M. The JPS Torah Commentary: Genesis. Philadelphia: The Juwish Publication Society, 1989.

Walvoord, John F., and Roy B. Zuck. ed. Bible Knowledge Commentary Old Testament: An Exposition of the Scriptures. Colorado Springs, Colorado: Victor, 2000.

Wenham, G. J. "Genesis 1-15". Word Biblical Commentary Vol. 1. Waco, TX: Word. 2002.

Wright, G. Ernest. Biblical Archaeology. Philadelphia: Westminster, 1957.

カラー聖書ガイドブック . 中村寿夫 森正義 松代幸太郎 Trans. 東京: いのちのことば社, 1983. 

サムエル J. シュルツ. 旧約聖書概観.  東京: 聖書図書刊行会, 1974.

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ブロガー: 西原智彦
1972年広島生まれ。ロボットが好きで工学修士に(1996)。聖書に惚れ込み、実践神学修士に(2005)。(さらに詳しく >>)

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